鍼灸のはじまり、実は”鉄”がつくった文化かもしれません

鍼灸のルーツは、今から1500年ほど前、飛鳥時代に仏教とともに中国から日本に伝わったと言われています。けれど面白いのは、そこから日本は日本独自の鍼灸文化を育てていった、ということです。
鍼(はり)は、金属でできています。そう考えると、鍼灸という文化が、金属加工が盛んな土地を中心に広まっていったのは、自然なことだったのかもしれません。
昔、鍛冶屋さんが金属を加工すると、削りカスが出ます。これは「くそ鉄」と呼ばれていたそうです。先端が尖ったくそ鉄で体のツボを刺激する……という民間療法が、庶民のあいだで行われていたようです。
そして金属加工といえば、熱した金属を扱う仕事です。当然、火花も飛びます。小さな火傷を負うこともあったでしょう。でも、その小さな火傷のあとに、なぜか身体の調子が良くなる……という経験が積み重なって、日本独自の「灸(きゅう)」の文化が生まれたのではないか、というのが私の仮説です。
余談ですが、忍者のあの黒い衣装。あれももともとは、金属加工をする職人が、火の粉から身を守るための作業着だったのではないか、と言われています。それがいつしか、忍者の装束として広まっていった、というわけです。
もちろん、これらは正式な史実として確立されたものではなく、私自身の考察・推測です。ですが、鍼灸という治療が、遠い昔の職人さんたちの知恵と工夫のなかから生まれてきたのだと思うと、なんだか身近に感じませんか?
実は新潟も、お灸とご縁の深い土地なんです

新潟のお土産といえば、笹団子や草餅。ヨモギを使った郷土のお菓子ですよね。実はこのヨモギ、お灸の原料である「もぐさ」の材料でもあります。
そして新潟は、質の良いもぐさの一大産地としても知られています。特に上越地方は良質なもぐさの産地として名高く、現在では高級なもぐさのほとんどが新潟県内で作られていると言われています。
もぐさがこれだけ豊富にある土地だからこそ、育った技術もあります。それが「灸頭鍼(きゅうとうしん)」という、鍼の柄に団子状に丸めたもぐさを乗せて燃やす、独特の施術方法です。もぐさを惜しみなく使えるからこそ発展してきた技術ではないか、と私は考えています。
もちろん、気候も一役買っているはずです。新潟は冬になるとぐっと冷え込み、湿気も多い土地柄です。この「冷え」と「湿気」は、まさにお灸が得意とする不調そのもの。土地の風土と、お灸の効能が、うまく噛み合っているのかもしれません。
鍼灸が、日本の医学の”主流”だった時代

こうして生まれた(かもしれない)鍼灸は、その後、漢方薬とともに、明治時代の初めまで、日本における医学の主役でした。江戸時代までは、体調を崩したら鍼灸か漢方、というのが当たり前だったのです。
ところが幕末、オランダから伝わった西洋医学が明治政府によって正式な医学として採用されると、鍼灸や漢方は一時、非合法化されてしまいます。しかし明治35年、その効果があらためて認められ、鍼灸は再び合法化されました。
そして現在。鍼灸は、免疫の働きを整えたり、血のめぐりを良くしたり、身体のバランス(恒常性)を保つ手助けをするものとして、多くの方の健康を支え続けています。
「鍼(はり)」ってどういうもの?
鍼は、髪の毛ほどの細さの金属の針を、皮膚に軽く触れさせたり、そっと刺入したりして、身体に小さな刺激を与える施術です。
「刺す」と聞くと痛そうなイメージがあるかもしれませんが、実際はとても細い鍼を使いますので、蚊に刺されるよりも感じにくいことがほとんどです。
この小さな刺激が、身体の中で反射反応を引き起こし、内臓の働きや自律神経のバランスを整えてくれます。結果として、病気になりにくい身体をつくったり、今つらい症状をやわらげたりすることにつながっていきます。
「灸(きゅう)」ってどういうもの?
灸は、「もぐさ」という植物を燃やして、皮膚にじんわりとあたたかい刺激を与える施術です。
もぐさは、身近な野草・よもぎの葉からつくられます。よもぎを燃やしてできる温熱が、古くから病気の治療や、日々の養生(健康維持)に使われてきました。
当院で採用しているお灸
当院で行っているのは、「知熱灸(ちねつきゅう)」と「台座灸(だいざきゅう)」です。どちらも痕を残さない、やさしいタイプのお灸で、お子さんからご高齢の方まで、幅広く受けていただけます。
知熱灸

お米一粒の半分ほどの、ごく小さなもぐさを皮膚の上にのせて燃やします。あたたかさを感じた瞬間にすぐ火を消すので、痕は残りません。「どのタイミングで消すか」によって、刺激の強さを細かく調整できるのが特徴です。
台座灸

円柱状にしたもぐさを、中心に穴の開いた台座にのせたもので、底に接着剤がついているため、患部に貼り付けて使います。もぐさが皮膚から少し離れているぶん、じんわりとやさしい温熱が伝わります。
鍼と灸を組み合わせた「灸頭鍼」

当院では、鍼を刺した状態で、その鍼の柄に団子状に丸めたもぐさをのせて燃やす「灸頭鍼(きゅうとうしん)」という施術も行っています。
鍼を通じて熱が伝わっていくため、皮膚の表面だけでなく、身体の深いところまで温熱刺激を届けられるのが灸頭鍼の特徴です。そのため、表面的な不調ではなく、より深部に原因があるタイプの症状に向いています。
当院では特に、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症といった、重度の腰痛でお悩みの方によく用いています。こうした腰の不調には、深部の筋肉の緊張をゆるめること、血のめぐりを良くすること、神経の興奮を落ち着かせることが、症状の緩和につながると言われており、灸頭鍼はその「深部にじっくり働きかける」という特性が活きる施術だと考えています。
※椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症は、症状の程度によって医療機関での診断が優先される場合があります。強いしびれや麻痺などがある場合は、まず医師にご相談ください。
「置鍼」と「円皮鍼」も、当院の得意分野です

鍼を刺した状態でしばらくそのままにしておく「置鍼(ちしん)」は、当院が特に力を入れている施術のひとつです。刺激をじっくりと身体に届けることで、筋肉の緊張をゆるめたり、血のめぐりを促したりする効果が期待できます。
さらに当院が力を入れているのが「円皮鍼(えんぴしん)」です。円皮鍼は、髪の毛ほどの細さの、ごく短い鍼がついた小さなシールを、ツボや気になる部位に貼っておく施術です。
鍼というと「その場限りの刺激」というイメージがあるかもしれませんが、円皮鍼は貼っている間ずっと、ツボへの刺激が続きます。そのため、一般的な鍼よりも刺激の持続時間が長く、日常生活を送りながら効果を持続させられるのが大きな魅力です。当院では、施術後のセルフケアとしても、この円皮鍼を積極的に取り入れています。
「小児はり」ってなに?

当院で行っている小児はりは、「大師流(だいしりゅう)小児はり」という流派です。
明治時代の半ばに、大阪・八尾で生まれた治療法で、130年以上の歴史を持つ伝統的な技術です。今では日本全国はもちろん、アメリカやドイツなど海外でも使われています。
「治療」という響きから、痛いことをするのでは……と心配になる保護者の方もいらっしゃると思いますが、ご安心ください。大師流の一番の特徴は、鍼を「刺さない」ということ。専用の鍼先を使って、お子さんの肌の表面をやさしくさするだけの施術です。鍼先に指を添えて、リズミカルにそっとなでていくので、まるで羽毛でくすぐられているような、心地よい感覚だと言われています。
このやさしい刺激によって、「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンが分泌されると考えられており、夜泣きや疳の虫、便秘といった、小さなお子さん特有の不調と向き合う施術として、親御さんたちに親しまれています。
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鍼灸って、何に良いの?
鍼灸には、様々な作用があると考えられています。ここでは代表的な6つを、できるだけわかりやすくご紹介します。
① 痛みをやわらげる
鍼を刺すと、痛みがやわらぐことがあります。これは、身体に「触れる・刺激する」という情報が脳や脊髄に伝わる中で、「痛い」という情報の伝わり方に影響を与えるためではないか、と考えられています。
「痛いの痛いの、飛んでいけ」でなでてもらうと痛みが少し楽になる、あの感覚に近いものです。
面白いのは、足に鍼をしただけなのに、頭痛が楽になる……ということも起こりうる点です。身体のどこかに刺激が加わると、その場所だけでなく全身に鎮痛的な作用が広がる、という仕組みが関係していると言われています。
② 血のめぐりを良くする
鍼やお灸には、冷え性など、末端の血のめぐりが悪くなることで起こる不調に対して、良い作用があるとされています。
皮膚に刺激を与えると、その部分がじんわり赤くなることがありますよね。あれは血管が広がっているサインです。血管をゆるめる働きのある物質が身体の中で作られやすくなることが関係していると考えられています。美容鍼で肌のめぐりにアプローチするのも、この作用を利用したものです。
③ 筋肉をやわらかくする
鍼を刺すと、その周辺の筋肉への血の流れが増えることが分かっています。血のめぐりが良くなることで、疲労物質が洗い流されやすくなり、筋肉の痛みや疲れがやわらぐことにつながると考えられています。
鍼をしたあと、施術者が鍼を少し動かしたりする場面がありますが、これは筋肉の血流をより高めるための工夫のひとつです。
④ 血圧や動悸への働きかけ
筋肉に鍼をすることで、血圧や心拍に関わる神経の働きが落ち着くことが報告されています。血圧や動悸、息切れが気になる方にとって、鍼灸が一つの選択肢になり得るのは、こうした背景があるからです。
※鍼灸はあくまで身体のバランスを整える施術であり、血圧や心臓の病気でお薬による治療を受けている方は、必ず主治医の指示に従ってください。
⑤ 胃腸の調子を整える
鍼は、胃のむかつきや吐き気、便秘や下痢、お腹の張りなど、胃腸のトラブルにも用いられます。鍼の刺激が自律神経を通じて、胃や腸の動きに働きかけるためと考えられています。
面白いことに、お腹に鍼をすると胃の動きが落ち着き、逆に手足に鍼をすると胃の動きが活発になる、という報告もあります。弱っているところは高めて、過敏になっているところは落ち着かせる。ちょうどいいバランスに近づけていくのが、鍼灸の得意なところです。
⑥ 頻尿・おねしょの改善
お尻の仙骨まわりや、お腹、太ももなどへの鍼は、頻尿や、お子さんの夜尿症(おねしょ)にも用いられることがあります。鍼の刺激が自律神経を通じて、膀胱の働きに作用すると考えられているためです。
何かに夢中になっている時はトイレに行きたくならないのに、リラックスしている時にふと尿意を感じる……という経験、ありませんか?これは自律神経の働きによるもので、鍼灸はこのバランスを整えるお手伝いができる、というわけです。
おわりに
鍼灸は、遠い昔、名もなき職人さんたちの知恵から生まれ、1500年という長い年月をかけて、日本で独自に育ってきた文化です(諸説あります、というより私の説ですが)。
シンボ接骨院鍼灸院では、そんな鍼灸の力を、現代の暮らしの中で無理なく取り入れていただけるよう、一人ひとりの身体に合わせた施術を行っています。


